齋藤英之物語 ~燻煙乾燥との出会い~
<何のために家を建てるのか?>
幸せとは「体の健康」「心の豊かさ」「“お財布”の安心」の3つで成り立っていると思う。
家を建てるのは、幸せになるためだ。
そのためにはまず、健康に過ごせる家を提供する必要がある。
そう気づいたのは暖かい家を作った後に、健康被害が出た時のことだ。
「なんだか頭が痛いの・・・」
原因は家の一部に使用していた新建材(化学物質を含んだ材料)だ。
新建材を使っていた理由は、新建材を使うのが当たり前だと思っていたからだ。
それ以外の家づくりを、私は知らなかった。
北海道で気が付いた、お客様に快適な暮らしを提供したいという想い。
それを実現するために、暖かい家を作った。
でも結果的には、自分の手掛けた家でお客様の暮らしを悪い方に変えてしまった。
それが申し訳なくてたまらなかった。
「家は幸せになりたいから建てるものだよな? そのために一番大事なのは健康じゃないのか」
どんなに涼しくても暖かくても、健康には変えられない。
健康な体があってこその幸せだ。
問題が起こって初めて、そう気が付くことが出来た。
「家には国産の無垢材を使おう、匂いも色も艶も、国産材に敵うもんはない」
頭が痛いという話を聞いて、余計にそう思った。無垢材は天然の物なので、健康被害は出ない。
昔嗅いだ国産の木の匂い、色や艶。
幼いころから木に触れ合ってきたからこそ、その良さは誰よりもわかっている。
でも、そのまま使っては新建材ほどの強度が出ない。
どうやったら、強度を保ったまま木材を乾燥させるか?
それが一番の問題だった。
<木への愛情>
健康な家づくりを目指す上で、ある考えがよぎった。
200年前に建てられ、今でも日本に現存する建物は、2万戸。
機械も何も無い時代に作った建物が、2万戸も残っている。
でも現代の技術を駆使してる家が、30年しか持たない。
なんなんだ・・・
(そういや昔の家には囲炉裏があったよな、家の寿命と何か関係あるのかも?)
何気なく興味を持って調べたら、“燻煙乾燥”という物があると知った。
煙でいぶす、木材の乾燥方法だ。
希少価値材になっている将棋や碁の盤は、この燻煙乾燥が施されているという文献を見つけた。
その時、私の中の点が線になって繋がった。
「そういえば生の魚も煙でいぶしたら腐らないよな! だから昔の家は長持ちしたんだ!」
やると決めたら、突き進む性分だ。
燻煙乾燥は自分の描いていたイメージにピッタリと合った。
お客様の幸せにとって、木にとってプラスになると思った。
その後、縁あって出会った会社で、燻煙乾燥炉を作るためのノウハウを教わり、
沼田のバカでかい土地に工場を建てた。
しかし、工場が出来てもすぐに実用には至らなかった。問題が沢山あったからだ。
積んでいた木材が崩れたり、上手く乾燥させれなかったりと、一つクリアするごとにまた違う問題が起こった。
特には、乾燥炉の温度を安定させるのに苦労した。
煙を起こすためには、火を使う必要がある。
最適な状態に木材を乾燥させるには、火の温度を一定に保たなければならない。
24時間管理体制で、私と社員で寝ずの番をした。
一時間に一回、温度管理表を見てチェック。
火災が心配で、結局1週間家に帰れなかった。
工場を作って以降は、そんな毎日を過ごしていた。
工場を建てた当時は大変だったんじゃないですか?と、たまに質問を頂くが、全然そんなことはない。
夢に向かって進んでいるので、楽しくてしょうがなかった。
失敗するなんて全く考えなかった。
その先にお客様の最高の笑顔がある。
最高の商品を提供するのは、作り手のエチケット。
私は今でもそんな思いでいる。