コラム
素足が喜ぶ無垢材の床:硬さ、香り、経年変化...樹種別の選び方と「浮造り」の職人技
家を建てる際、壁紙や間取りに比べて、床材は単なる「仕上げ」として見過ごされがちかもしれません。しかし、床は毎日素肌に触れ、室内の空気をつくり出す、暮らしの質を決定づける最も重要な要素の一つです。特に無垢材の床は、自然素材ならではの温もりと、樹種ごとの個性を持っています。この記事では、木のプロフェッショナルが解説する無垢材の魅力、針葉樹と広葉樹の根本的な違い、そして日本のスギ材の価値を最大限に引き出す特殊な加工技術「浮造り(うづくり)」の秘密について解説します。

目次
住まいに安らぎをもたらす無垢材の「香り」と「調湿」機能
無垢材は、ただ美しいだけでなく、五感を通して住む人に安らぎを与える機能を持っています。まず特筆すべきは、木の「香り」です。展示場などでも木の香りに包まれると、心が落ち着くのを感じるでしょう。この香りは、10年、15年経過してもなお持続しているという声も聞かれます。次に重要なのが、木材が持つ「呼吸する」機能です。この調湿作用により、湿気の多い夏場でも床がベタベタせず、常にサラサラとした心地よい肌触りが保たれます。さらに、無垢材は10年後、20年後と時間をかけて色合いが深まり、経年変化を味わえる点も大きな魅力です。
触り心地が決め手!「針葉樹」と「広葉樹」で異なる硬さと重さの真実
床材となる木材は、まず大きく「針葉樹」と「広葉樹」に分けられます。この分類は、木材の硬さや重さに直結し、床に求めている要素によって選び方が変わります。針葉樹は、常に緑を保ち、成長が比較的早く、材が柔らかく軽いのが特徴です。この柔らかさが、素足で踏んだ時の温かみや心地よさにつながります。一方、広葉樹は紅葉・落葉する木で、成長が緩やかなため、材の密度が高く、一般的に硬く重いものが多いです。硬さの指標である比重が1を超えると水に沈む材となりますが、広葉樹にはこうした高密度の材が多く、重厚で傷つきにくい点が特徴です。
樹種の個性を読み解く:スギの紅白、ヒノキの繊細さ、ナラの複雑な木目
具体的な樹種を見ていくと、その個性はさらに明確になります。
・スギ(杉):日本の代表的な針葉樹であり、赤身(赤っぽい部分)と白太(白い部分)の美しいコントラストが特徴です。香りが強く、柔らかい材の代名詞ですが、夏に早く育つ「夏目」と冬にじっくり育つ「冬目」の硬度差が非常に大きいという特性を持ちます。
・ヒノキ(檜):独特の香りが広く知られ、風呂などにも使われます。スギに比べると成長が緩やかなため木目が細かく、赤身がほんのりピンク色で、全体的に統一感のある色合いです。
・ナラ(楢):カバザクラなどと同じ広葉樹で、家具や樽材に使われる非常に硬く重い木です。ナラ材の特徴として、木目に沿ってパパッと入る「虎斑(とらふ)」と呼ばれる模様があり、これは横の結合が強いために出るもので、広葉樹らしい複雑な木目をつくり出します。
柔らかいスギを「傷に強く、より快適に」変える特殊加工「浮造り」の秘密
針葉樹の代表であるスギは、その柔らかさゆえに「傷つきやすい」という弱点があります。この弱点を克服し、快適性を極限まで高めるのが、特殊な表面加工技術「浮造り(うづくり)」です。浮造りとは、木目が浮き出たように表面に凹凸を施す加工のことです。
・加工原理: スギ材の「夏目」と「冬目」の硬さの違いを利用します。専用の機械にセットされたブラシを使い、硬度の低い夏目の部分だけを削り取って凹ませ、硬い冬目の部分を浮き立たせることで凹凸を生み出します。
・職人のこだわり: この機械は、複数の硬さの違うブラシを使用し、荒削りから仕上げまでを行います。さらに、ブラシの回転の向き(逆回転と正回転)や回転数を一つひとつ変えるという、何万通りもの組み合わせから選ばれた最も良い状態に設定されており、その仕上がりの美しさに職人のこだわりが詰まっています。
・快適性・耐久性の向上: この凹凸により、素足で歩いた時の肌触りが心地よく、凹凸があることで常にサラサラとした状態が保たれます。また、硬い冬目が先に当たるようになるため、物を落としたりしても傷がつきにくくなるという、耐久性向上の役割も果たします。
まとめ
無垢材の床は、樹種が持つ自然の恵みと、それに手を加える職人の知恵によって、私たちの暮らしを豊かにしてくれます。柔らかい針葉樹は心地よさを、硬い広葉樹は重厚な耐久性を提供しますが、スギ材の「浮造り」のように、木の特性を最大限に活かし、弱点を補う特殊加工を知ることは、床材選びにおいて非常に重要です。香り、肌触り、そして経年変化の美しさ。これらを考慮して選ばれた無垢材の床は、住むほどに愛着の増す、あなたにとって最高の空間を作り出すでしょう。
▼詳細はこちらの動画から確認できます▼