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コラム

2026.03.29

「杉」は悪者か、救世主か?花粉症の季節に考える、森と家づくりの意外な関係

春の訪れとともにやってくる、目のかゆみやくしゃみ。現代人にとって花粉症は、季節の風物詩というにはあまりに辛い悩みです。その原因の筆頭として語られる「杉」ですが、実は私たちが住まう家づくりの主役でもあります。「花粉を出す木で家を建てるなんて」と、少し複雑な心境になる方もいるかもしれません。しかし、一見すると矛盾しているような「杉を使うこと」と「花粉症問題」の間には、未来の環境を守るための重要な鍵が隠されています。

花粉症が増え続ける背景と、放置された森の現実

花粉症が増え続ける背景と、放置された森の現実

日本でこれほどまでに花粉症が蔓延した背景には、戦後に行われた大規模な杉の植林があります。当時は復興のための資材として急速に植えられましたが、その後の安い輸入材の普及や林業の担い手不足により、多くの杉林が手入れされないまま放置されてしまいました。
実は、杉は樹齢を重ねて高齢化するほど、子孫を残そうとして大量の花粉を放出する性質があります。つまり、森のサイクルが止まり、古い木が居座り続けている現状こそが、花粉を増やし続けている大きな要因の一つなのです。

「伐って、使って、植える」が森を救う理由

「伐って、使って、植える」が森を救う理由

この状況を打破するために必要なのが「森林の循環」です。林業の本来の姿は、十分に育った木を伐採して資源として活用し、その跡地に新しい苗木を植えて育てるというサイクルにあります。
古い杉を家づくりの材料として積極的に使うことは、花粉を大量に撒き散らす「老齢な森」を、エネルギー溢れる「若い森」へと更新する手助けになります。私たちが木の家を選ぶことは、単なる消費ではなく、森を健全な状態へ引き戻すための環境活動の一環とも言えるのです。

進化する杉と、次世代へつなぐ新しい森づくり

進化する杉と、次世代へつなぐ新しい森づくり

現在、研究機関では「無花粉スギ」や「少花粉スギ」といった、花粉をほとんど出さない品種の開発が進んでいます。古い木を伐採した後の再植林において、こうした改良品種が選ばれるケースが少しずつ増えてきました。
家づくりを通して地域の木を循環させることは、将来的に「花粉の少ない森」へと植え替えを進めるきっかけを作ります。今ある木を使うというアクションが、巡り巡って未来の春をより快適なものへと変えていく可能性を秘めているのです。

木の家がもたらす、花粉に負けない心地よい暮らし

木の家がもたらす、花粉に負けない心地よい暮らし

「杉の家は花粉症に悪影響があるのでは?」という不安を耳にすることがありますが、その心配はありません。建築資材として加工された木材から花粉が飛散することはないからです。
むしろ、無垢の木を使った住まいは、室内の湿度を一定に保つ調湿作用や、有害な化学物質の少なさから、デリケートな粘膜を持つ花粉症の方にとっても優しい空気環境をもたらします。外で花粉にさらされた身体を、木の香りと柔らかな空気が包み込む住まいは、まさに現代人にとってのシェルターのような役割を果たしてくれます。

まとめ

花粉症の季節、杉の木をつい恨めしく思ってしまうのは仕方のないことです。しかし、森の循環という大きな視点で見れば、杉は私たちの暮らしを支え、環境を守る大切なパートナーです。地元の木を使い、新しい森を育てる。そのシンプルなサイクルを止めないことが、未来の花粉症を減らし、豊かな自然を次世代へ引き継ぐ唯一の道なのかもしれません。